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国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構様

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Leicaレーザートラッカー
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国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構様の画像

数億℃の物質と大電流を扱う核融合炉
組立のカギはレーザー測定による絶対座標

茨城県那珂市には、地球の未来エネルギーといわれる「核融合」を研究する量子科学技術研究開発機構があります。原子力エネルギーは原子核に粒子をぶつけて原子核を割る核分裂反応を利用するのに対して、核融合エネルギーは軽い原子の原子核同士をぶつけて重たい原子核に変える核融合反応を利用するもの。高レベル放射性廃棄物が出ないため、安全性が高いエネルギーとして研究が進んでいます。

この研究所が注目されたのは、核融合装置「JT-60」の存在によってです。核融合エネルギーを取り出すには燃料を1億℃以上に熱し、分子などを構成する電子と原子核がバラバラになって飛び回る「プラズマ」状態を作り出さなければいけません。高温・高密度の状態を制御するのは難しく、各研究機関が苦心するポイントでもあります。1985年に稼働を開始した「JT-60」は、1996年に重水素プラズマを温度1.9億℃、1立方cm内49兆個のイオン密度、閉じ込め時間1秒で閉じ込めることに成功し、世界を驚かせました。

その後日本は、2006年に欧州・ロシア・米国・中国・韓国・インドとITER(国際熱核融合実験炉)協定を締結。当機構はITER計画における日本の国内活動機関となるとともに、現在は発展的研究を行うため「JT-60」の運転を一旦停めて解体。日欧共同で新たな超伝導トカマク装置「JT-60SA」への改造が行われています。

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JT-60SA本体鳥瞰図

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「JT-60SA」全体写真(2016.12)

「JT-60SA」の特徴は、直径6mになるプラズマの輪を大型超伝導コイルによって維持すること。使用する550万Aという強力電流、4万kW×100秒という加熱パワーを制御するには精密な巨大装置が必要です。また、装置のパーツは欧州など海外からも届き、微妙な個体差のある部品を正確に組み立てなければいけません。その際に活用されているのが東京貿易テクノシステムのAT901/AT401/AT402というLeicaレーザートラッカーです。

密さが要求される核融合装置の組立ではどんな測定が行われているのか、トカマクシステム技術開発部 JT-60本体開発グループの主任技術員、西山友和さんにお話を伺いました。

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西山友和さん

「JT-60」運転時から「JT-60」本体装置の運転保守に携わり、2008年停止後からの解体作業では放射化した部品の保管管理を担当。「JT-60SA」プロジェクト開始後は「JT-60SA」本体の組立計測関連業務、周辺設備の設計検討などを行っている。

未来の電力を生み出すエネルギーとして期待

——「核融合エネルギー」という言葉は知っていますが、詳しくはどんなものですか。

身近なところでいえば、太陽は核融合反応で光り輝いています。絶え間なく膨大なエネルギーが生み出される状態を地球上でも再現しようというのが「核融合」の研究です。「地上の太陽」とも呼ばれています。

今、原子力発電で使われているエネルギーは、ウランのような重たい原子核に中性子を衝突させて軽い原子核に分裂させる核分裂反応を利用したものです。ただし核燃料は使うたびに中性子の発生数や発熱量が落ち、劣化していきます。新しい核燃料と交換する際に取り出されるのが「使用済み核燃料」で、高レベルの放射性を含み処理が難しい物質です。

私たちが研究する核融合エネルギーは、水素の仲間である重水素と三重水素の原子核を高温で融合させる核融合反応を利用したものです。中性子ができるので放射線が発生しますが多くは核融合炉の中で熱に変わります。ただ、この中性子によって構造物が放射化してしまうのですが、低レベル放射性物質なので扱いは比較的簡単です。

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それに核融合の燃料となる重水素は海水中に存在するので、資源は無尽蔵といってもいいかもしれません。核融合の燃えかすはヘリウムで、二酸化炭素や窒素酸化物は発生しません。環境にやさしく安全性に優れているという評価はここからきています。

将来は核融合エネルギーを発電に使おうというのが私たちの目標です。どんな条件で実用化できるか研究するため、最新鋭の装置を当機構で組み立てています。

——すでに世界的にとても有名な装置があると聞きました。

おそらく「JT-60」ですね。電磁石の磁場と大電流による磁場を合わせて磁力線のカゴを作り、その中にプラズマを閉じ込める方法をトカマク方式といいます。「JT-60」は世界3大トカマク装置に数えられ、多くの実績を残しました。

核融合反応は、物質の電子と原子核がバラバラになるプラズマ状態を維持するため強力な装置が必要です。求められる温度は数億℃、原子核が数多く衝突するよう高密度の環境を作らなければいけません。そこで、プラズマを構成する原子核と電子が電荷を持つ性質を利用し、磁力線で動きをコントロールする装置の一つがトカマク方式です。「JT-60」は1996年にイオン温度5.2億℃を達成し、人類が地上で作った世界最高の温度としてギネスブックにも載っていました。

——この「JT-60」を改造して、さらに効率的な核融合反応を研究するのですね。

はい。これまでは常伝導コイルだった仕組みを超伝導コイルに換え、ITERの支援研究に貢献できる装置にします。2013年1月から「JT-60SA」の組立が始まり、2019年運転開始を目標にしています。

日本と欧州で製作したパーツを正確に組み立てるため、測量計画を立てたり、レーザートラッカーをメンテナンスするのが私たちの仕事です。最先端機器の集合体なので3次元CADシステムや測定装置を駆使しています。

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3次元CADシステムを用いた測量計画図

パーツを動かしながらリアルタイムで位置確認

——装置はどのくらいの大きさですか。

中心にあるドーナツ型のプラズマ部は直径6mほどですが、プラズマを閉じ込めるトロダイダル磁場コイル、プラズマの位置や形状を制御するポロイダル磁場コイル、超伝導磁石を極低温に保つ容器・クライオスタットなど周辺設備を含めると直径15m近くになります。ここに他の設備や機器が取り付けられるので最終的なサイズはもっと広がる予定です。

組立現場は本体室と呼んでいて、40m四方、高さ約40mほどの空間です。空調で環境を一定に整えて常に同じ条件で組み立てられるようにしています。

まず欧州から土台を取り寄せ、その上に日本で作った下側ポロイダル磁場コイルを載せ、さらにドーナツ型の真空容器を設置します。最初から円形で届くのではなく、ミカンの一房のように小分けになったパーツで来るので、これを正確に放射状に並べ構成します。

続いてプラズマを閉じ込めるための磁場を作るトロイダル磁場コイルを設置します。薄く分けられたコイルは輪状で、クレーンを使ってその中に真空容器を通すという難しい作業です。これが18個そろうと360°分になり、真空容器全体が覆われる状態になります。

どれも精密機器で数メートルの大きさながら、容器と磁場コイルの隙間は数十mm程度。設計に沿って、破損させずに、早く正確に組み上げなければいけません。そのためには精密な測定が不可欠です。

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「JT-60SA」トロイダル磁場コイルの組立作業

——組立現場で、レーザートラッカーはどのように活用されていますか。

本体室に座標を作って、各機器の設置位置を座標値で管理しています。縦・横・高さをそれぞれX・Y・Zとして、プラズマの中心位置となる床から高さ8mの位置を高さのゼロ起点にしています。

扱うものが巨大で、狭い空間に入り組んで設置されるためレーザーが遮られることは予想していました。だから測量計画を立てる段階で壁に基準点をたくさん配置し、その基準から測定すればいつでも正確な絶対座標を読み取れるようにしています。もっとも大切な超伝導コイルの中心軸になるソレノイドコイルも数メートルの大きさですが、許される設置誤差は1mm以下です。レーザートラッカーの精度でないと対応できないと感じます。

——レーザートラッカーの使い心地はどうでしょうか。

ものを動かしながら測れるのは便利ですね。測定機2台を使って内側・外側など異なる2点を同時に測定することがあります。PCと測定機は無線で接続できるので、PCを並べて両方の座標値を確認しながら位置を調整する方法をとっていますが、パーツが今どの位置に来ているか、レーザートラッカーならPCでリアルタイムの座標がわかるので効率よく合わせられます。

最初に購入した機種は据置型のAT901とポータブル型のAT401です。測定機2台で計測するために、さらにAT402を追加しました。AT402を選んだのはハンドヘルド型ワイヤレススローブ「B-Probe」が使えるからというのも大きな理由です。これは球状のリフレクターを固定する台座用の穴が開けられない場所も測定できます。

球状のリフレクターでは対応しづらい罫書きしたポイントを測定しなければいけなくなったので、いいタイミングでした。「B-Probe」のオプションに針状治具があり、それを使って溝があるところもサッと測定できるようになりました。

リモートコントロールでトラッカーの角度を変えられる機能も活用しています。手で動かしてトラッカーの位置が万が一ずれるのを避けるため、当初はレーザーをロックさせたリフレクターを移動させて角度を測定点に合わせていました。今はカメラで確認しながら角度を動かせるので作業効率が上がりましたし、特に高所ではリフレクターを持って移動しなくてすむので安全性も向上し、とても助かっています。

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レーザートラッカーを使用した測定

——設計通り正確に設置するには、正確な計測が大前提ですね。

設置したあとも細かい調整があります。たとえば放射状に取り付けるコイルは1個の角度がほんの少しずれると他もどんどんずれてしまうので、間に薄板のようなものを入れて正確な放射状になるよう整えるんです。事前に形状を計測して、どれくらいの厚みを入れればちょうど良い位置に固定されるか考える。海外からのパーツは微妙な個体差もあるので、やはり計測しながら修正する作業は欠かせません。

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「JT-60SA」真空容器セクターモデルにて

ボルトで固定するほか溶接する箇所もあります。溶接するとどうしても変形してしまうので、溶接前後でどれだけ形状が変化したか、歪みが発生したのか、必ず計測して確かめます。くり返すと「この状況下ではこれだけ縮む」というデータが蓄積されます。真空容器のように分割されたパーツを組み立てる場合は、最初のパーツの溶接から得られたデータを、以降のパーツの組み立てに活かすことができます。

だから同じパーツを何度も計測していますね。単体で置いたときと、つなげて加工したあとでは状態が変わる。大きな装置は一つ一つの正確さの積み重ねが全体の精度に反映されます。レーザートラッカーでしか出ない精度があるので、それを頼りに完成までつなげたいと思います。

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2016年4月に国立研究開発法人放射線医学総合研究所(放医研)と国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)量子ビーム部門の一部および核融合研究部門を統合し、名称を変更して発足した。量子科学技術や放射線の医学的利用に関する研究開発などを総合的に行う。今回訪問した那珂核融合研究所は原子力機構からの技術や成果を引き継ぎ、欧州などと連携しながら核融合炉の実用化に向けて工学技術の研究開発を進めている。