寸法検査は、製品や部品が設計どおりの基準に沿って作られているかを検証し、品質を保証する大切な作業工程です。
製造現場では、精度を担保しながら作業工程を効率化する必要がありますが、適切な検査方法や測定機の選択に迷う場面もあるでしょう。
この記事では、寸法検査の概要から検査方法や測定機の選び方、効率化・自動化までをわかりやすく解説します。
寸法検査とは
寸法検査は、製品や部品が仕様どおり寸法や公差の範囲内に収まっているかを確認し、品質を保証する重要な工程です。寸法検査の基本的な定義と重要性、類似する「寸法測定」との違いを詳しく解説します。
寸法検査には全数検査と抜取検査があり、コストや時間の制約に応じて使いわけられています。抜取検査の詳細は以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
寸法測定との違い
寸法検査は図面どおりに製品が作られているかを確認する工程ですが、名前の似ている寸法測定は、製品や部品の長さ・幅・高さなどの数値を測る行為そのものを指します。寸法検査との違いは以下のとおりです。
項目 | 定義 | 目的 |
---|---|---|
寸法検査 | 測定値を設計図面の公差と照合し、合否を判断する品質保証の工程 | 設計の条件を満たしているかを確認し、適否を決める |
寸法測定 | 製品や部品の長さ・幅・高さなどの数値を測る行為 | 実際の寸法値を把握する |
たとえば、ノギスなどの測定器で部品の外径を測るのが寸法測定です。一方、測定値が図面の公差の範囲内かを確認し、合格・不合格を判定する作業のことを寸法検査といいます。
寸法検査の目的
製造現場で寸法検査をおこなう目的は、大きく分けて品質保証と品質向上の2点です。2つの目的を詳しく解説します。
品質を保証するため
製品や部品が設計図面の基準に沿っているかを確認し、品質を確保することが寸法検査の主な目的です。
設計どおりの寸法に仕上がっていない部品は、組み立てのときに隙間や干渉が生じ、製品が正常に機能しない原因となります。検査で不良品を早期に発見・排除すれば、後工程でのトラブルや顧客への不良品流出を防げます。
寸法検査は製品の完成度を高め、顧客満足度の維持と企業の信頼性向上に直結する重要な工程です。
品質の向上を促すため
寸法検査は品質保証だけでなく、継続的な品質向上を促進する役割も担っています。検査結果を加工者や組み立て者にフィードバックすることで、製造技術の改善や作業精度の向上を目指します。
検査で発見された寸法の傾向やばらつきを分析すると、加工機械の設定調整や工具の交換時期の適切な判断が可能となるでしょう。さらに、不良の原因が製造工程にあると判明した場合は、適切な加工方法や製造設備の検討ができるなどの改善にもつながります。
継続した改善活動で製造現場のスキルが向上すれば、高品質な製品を安定供給できる体制が整います。
寸法検査の主な検査項目
寸法検査では、製品や部品の用途や求められる測定の精度に応じてさまざまな項目を測定します。検査項目に合わせて適切な測定機の選定をおこなうことが、正確な検査結果を得るための重要なポイントです。
主な検査項目は以下のとおりです。
検査項目 | 目的 | 検査手法 |
---|---|---|
外径検査 | 相手部品との組み合わせや機能性を保証する |
|
内径検査 | シャフトなど挿入部品との適切なはめ合いを確保する |
|
精度穴径の検査 | 組み立て時の位置決めや部品間の正確な接続を保証する |
|
穴位置の検査 | 基準として定めた部位と穴の位置を測定する |
|
真円度の検査 | 円がどの程度たわんでいるかを把握し、そのたわみの状態を確認する |
|
これらの検査を適切に実施することで、不良品の市場への流出を予防し、製品の品質保証につながります。
寸法検査の手法
寸法検査は手動と自動の2つに分類されます。それぞれの特徴を理解すれば、検査項目や現場の条件に応じて最適な手法を選択できます。
手動検査
手動検査とは、ノギスやマイクロメータ、ダイヤルゲージなどの測定機を使用して、手動で測定をおこなう検査手法です。作業者が直接操作しておこなう検査手法です。主なメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット |
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デメリット |
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手動検査は柔軟性と迅速性に優れていますが、作業者の技術レベルに依存するため測定結果にばらつきが生じやすい特徴があります。
自動検査
自動検査は、画像測定機や三次元測定機などの専用装置を用いて自動で寸法を計測する検査手法です。自動検査のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット |
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デメリット |
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自動検査は高精度で一貫したデータが得られるため大量生産に適していますが、高額な初期投資と専門的な運用技術が必要です。
寸法検査に使われる装置
寸法検査では検査項目や求められる精度に応じて、さまざまな測定装置を使い分けます。各装置の特性を理解すれば、検査対象に最適なものを選択でき、正確で無駄のない測定につながります。
ノギス
ノギスは外径・内径・深さを測定できる汎用性の高い測定機です。親指で本体のスライド部分を操作し、対象物をジョーと呼ばれる部分ではさんで寸法を測定します。
比較的安価で導入しやすく、さまざまな形状の部品に対応できるため、製造現場で頻繁に使用される測定機のひとつです。ただし、測定者の技術により結果にばらつきが生じやすく、高い測定精度を必要とする検査には適しません。日常的な品質チェックや測定に適しています。
マイクロメータ
マイクロメータは対象をはさみ込み、高精度に寸法を測定する器具です。機種によっては1μm(0.001mm)レベルの精密測定が可能で、ノギスよりも正確な寸法検査を実現できます。
測定範囲は25mmごとに区切られており、0~25mm、25~50mmなど測定対象に応じた器具の選択が必要です。外径測定用・内径測定用・深さ測定用など用途別の種類があります。
高精度かつ多様な測定が可能なマイクロメータは、製造から検査や研究・開発に至るまで、さまざまな現場で活躍しています。価格はノギスより高めですが、精密検査には必須の装置です。
ダイヤルゲージ
ダイヤルゲージは、基準値からのズレや平面度・同心度などを簡易的に測定できる装置です。スタンドに固定し、測定子を対象物に当てて移動や回転による寸法変化をダイヤル表示で読み取ります。
主に、以下のような場面で幅広く活用されています。
- 部品を組み立てる際の正確な位置決めを確認したい場合
- 回転するシャフトなどの振れ具合を調べたい場合
- テーブルや加工面がどの程度平坦に仕上がっているかを確認したい場合
比較的安価で操作が簡単なため、製造現場での日常検査に適しています。
ただし、精度の高い結果を得るためには、基準面や基準点を正しく設置し、測定子の扱いと読み取りに慣れた測定者が測定をおこなうことが重要です。
CNC画像測定機
CNC画像測定機(=自動ステージ制御を備えた非接触式画像測定機)は対象物を撮影し、画像解析により非接触式で寸法測定をおこなう装置です。カメラでとらえた輪郭から自動的に寸法を算出するため、高精度かつ高速で測定ができます。また、非接触式のため対象物を傷つけることなく測定が可能です。
精密部品の外形測定や穴径・穴位置の検査に優れていることから、電子部品や医療機器など微細加工品の品質管理に活用されています。大量生産の自動検査システムにも適しているでしょう。
ただし、導入には高額な初期費用がかかるうえに、測定前の設定や操作が複雑なため、技術のある作業員が必要です。
三次元測定機
三次元測定機はプローブによる接触式やレーザーやカメラによる非接触式などの方式で対象物の座標を読み取り、複雑な形状や幾何公差を高精度で測定する装置です。長さ・角度・位置関係など多様な測定項目に対応し、測定データの自動記録が可能です。
複雑な形状の部品検査や組み立て精度の確認に優れており、自動車や航空宇宙産業で重要な役割を担っています。
当社では、持ち運びが容易で、測定前の準備や複雑な段取りを必要としない「Absolute Arm」を取り扱っています。詳細は、以下からご覧ください。
寸法検査の手順
寸法検査を効果的に実施するには、手順にしたがって作業を進めることが不可欠です。
図面と仕様の確認
始めに設計図面と仕様書を詳細に確認し、検査すべき項目と公差範囲を正確に把握します。図面上には寸法公差や幾何公差が細かく記載されているため、重要な測定箇所を見落とさないよう全体像を整理しましょう。
図面を正しく読み取るには寸法記号や公差表記の意味、測定機の使い方などの専門知識が必要で、寸法記号や公差表記の意味を理解していなければ適切な検査ができません。検査担当者が図面を正しく読めるよう、基礎的な指導をおこなう必要があります。
測定機の選定・測定環境の準備
検査対象の形状や求められる精度に応じて最適な測定機を選定し、正確な測定が可能な環境を整備します。簡単な外径測定にはノギスやマイクロメータ、複雑な形状の対象物には三次元測定機というように、測定機の特性を理解した選択が必要です。
測定環境の管理も精度に大きく影響します。金属部品は温度変化で寸法の変化が生じるため、測定は温度・湿度が適切に保たれた環境での検査室が最適です。
また、測定機自体も温度により微妙に変形する可能性があるため、定期的な校正と基準温度での使用が精度維持には不可欠です。
検査表の作成
検査表とは寸法検査を実施するために、検査項目や手順、判定基準などを一覧化した管理表です。検査の標準化と品質の安定化を図る役割を担っています。
以下の内容を検査表にまとめておくと、作業の効率化が可能です。
- 検査項目
- 測定手順
- 合否基準
まとめられた検査表を使用することで、測定漏れを防止し、複数の検査者が同一基準で作業を進められます。
デジタル検査表システムを導入すれば、手入力や機器連携で測定値を入力できます。さらに、自動判定で漏れや不良を防ぎ、品質管理部門との共有も効率化できるでしょう。
測定結果の記録欄も含めると、データの整理と各工程でのチェック作業の負担軽減につながります。また、測定結果を記録し、証明やトレーサビリティなどに使用される「検査成績書」との違いを以下に記載します。
項目 | 検査表 | 検査成績書 |
---|---|---|
役割 | 検査の手順を示す作業指示書 | 検査結果をまとめた品質証明書 |
タイミング | 検査実施前〜実施中に使用 | 検査完了後に作成 |
内容 | 検査項目、公差、測定方法、判定基準 | 実測値、合否判定、製品情報、測定条件 |
利用対象 | 検査担当者(現場作業者) | 品質保証部門、顧客、監査機関 |
効果 | 標準化・効率化 | 証明・トレーサビリティ |
- 「検査表」は検査のやり方を統一するための事前準備・作業用ツール。
- 「検査成績書」は検査が適切に行われ、製品が基準を満たしたことを証明する公式文書。
- 両者を明確に区別して運用することで、現場の効率化と顧客への信頼性向上の両方が実現できます。
測定と記録
検査表をもとに実際の測定作業を実施し、結果を正確に記録します。測定者が複数いる場合でも一貫した品質を保つため、作業手順を標準化し、チェックリストを活用しましょう。
測定データは後工程での品質管理や改善に役立つため、高い精度が必要です。
合否判定
測定結果を設計図面の公差や規格値と照合し、基準に基づいて合否を判定します。合格したものは工程や出荷に進み、不合格だったものは原因究明をおこなったうえで再加工または廃棄の処置を取ります。
判定結果はデータベースに蓄積し、品質管理の履歴として保管をすることが重要です。製品の追跡や改善に活用でき、継続的な品質向上を支える資料となります。
検査結果の活用
検査で発見された不良品は適切に修正または廃棄し、製造ラインへの悪影響を予防します。同時に、検査結果を加工者や組み立て者にフィードバックすれば、製造技術の向上と再発防止策の実施を促進できます。
検査データの分析により製造プロセスの問題点を特定し、設備調整や作業方法の改善につなげましょう。改善活動の継続により、品質と効率を高め、競争力のある製造体制を構築できます。
寸法検査の効率化や自動化
製造業界では労働力不足が深刻化していることと、顧客から求められる品質基準が厳しくなっていることから、寸法検査の効率化や自動化が急務となっています。
自動化システムの導入によるメリットは以下のとおりです。
- 人件費を大幅に削減できる
- 作業者の疲労や集中力低下によるヒューマンエラーを防止できる
- 測定データを一元管理し、品質履歴の追跡や統計分析を容易にできる
画像測定機や三次元測定機の活用により、手動検査と比較して長時間安定した高精度検査が可能です。作業者の疲労による精度低下がなく、一定の品質を保ちながら検査を続けられるため、人件費削減と検査時間の短縮を両立できます。
まとめ
寸法検査は、製品や部品の測定値が設計図面の公差範囲内に収まっているかを判定し、品質を担保するために欠かせない作業です。手動検査と自動検査の特性を把握し、項目ごとに適切な測定機を選ぶことが品質向上につながります。
労働力不足や顧客から求められる品質基準が厳しくなっていることから、検査の効率化や自動化が急務となっています。この記事でご紹介した手順と装置を活用し、最適な寸法検査体制を構築しましょう。
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