幾何公差とは、部品や製品の設計図において形状や配置などの変動の許容範囲を指定するものです。詳細な条件設定が可能なため、設計者の意向が作業者に伝わりやすく、想定通りの製造物が仕上がりやすいという特徴があります。
この記事では、幾何公差の概要や導入方法、種類などをわかりやすく解説します。東京貿易テクノシステムが開発した計測・解析ソフト「3D-Magic REGALIS」もご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
幾何公差とは
幾何公差とは、部品や製品の図面における形状や位置などについて、誤差の許される範囲を定めるものです。幾何公差を用いることで設計意図を図面に明確に示せるため、作業者はどのような部品や製品を作ればよいのかを正しく理解できます。不良品かどうかの判断を下しやすくなり、製造物の品質向上にもつながるでしょう。
部品や製品の製造過程では、図面と完全に一致した再現は現実的に困難なため、どの程度の変動であれば容認されるかを示す場合があります。
国内の製造業界では、大きさや角度における変動の上限を定める「寸法公差」の活用が一般的です。ただし、寸法公差では形状や位置関係などを規定できないため、製造現場での図面の解釈があいまいになる可能性があります。その結果、サイズが許容範囲でも表面に起伏が生じるなど、設計者の意図しないズレが発生するかもしれません。
そのため、形状や角度といった寸法以外の項目も詳細に規定できる幾何公差の活用が重要な意味を持ちます。
データムとは
データム(datum)とは、幾何公差において変動の許容範囲を示す際に用いられる基準です。
幾何公差では、図面上でパーツの形状や配置、角度などを定めますが、基準が存在しなければ的確な情報を伝えられません。図面上に直線や平面などのデータムを配置することによって、部品や製品との相対的な位置関係の伝達が可能になります。
寸法公差との違い
幾何公差は、部品や製品の形状・位置・方向などの誤差の許容範囲を示すものであるのに対し、寸法公差は、設計上の規格となるサイズから許される誤差の範囲を表します。ここでは、寸法公差と幾何公差の相違点を解説します。
規定できる公差の範囲
寸法公差と幾何公差は、それぞれ別の要素を対象として誤差の範囲を定めています。各公差の適用範囲は次のとおりです。
公差の種類 | 規定できる公差の範囲 |
---|---|
寸法公差 |
|
幾何公差 |
|
幾何公差は、寸法公差では規定できない形状のゆがみや部品の姿勢といった要素まで管理対象に含みます。
測定方法
寸法公差と幾何公差では、測定方法においても相違点が存在します。
寸法公差は、部品や製品における2点間の距離を測り、計測値が規定内に収まっているかを検証します。そのため、距離が規定内であれば、若干の歪みや傾斜が見られる場合でも不良品と判断されない可能性があるでしょう。
一方、幾何公差では、形状や位置の関係性についても許容誤差を設定できます。例えば、真っ直ぐさの誤差の範囲を定めて対象物を測定すれば、表面の凹凸が基準内に収まっているかどうかを明確に判断することが可能です。
このように、幾何公差では単純な2点間距離以外の多角的な測定もできるため、部品や製品の品質を担保しやすくなります。
幾何公差の必要性とメリット
製造業界では、寸法公差より細かく指示できる幾何公差への関心が高まっています。ここでは、幾何公差の必要性と導入するメリットを解説します。
設計意図を明確にできる
幾何公差を図面に適用することにより、設計者の意向を製造現場へ的確に伝えることが可能です。
図面から寸法だけでなく形状や配置についても詳しく読み取れるようになり、作業者が具体的な完成イメージを描きやすくなります。そのため、設計者と製造現場の間で認識の齟齬が生じにくく、部品や製品の形状確認に要する手間を減らせる可能性もあります。
品質の向上につながる
幾何公差を取り入れることにより、真っ直ぐさや平坦さなどを示す項目を、製造対象に応じて詳細に定めることができます。これによって、部品や製品の品質向上を図ることができます。
例えば、機械装置で使われるシャフトは長さが適正であっても、軸心にズレが生じていると動作不良や耐久性の低下を引き起こしやすくなります。こうした不具合についても、許容誤差を明記した図面に基づき部品を作ることで予防しやすくなるでしょう。
組立性が向上する
幾何公差の活用により設計者の考えを反映した部品を製造できれば、製品の組立性の向上につながります。これは、多くの製品が複数の部品を組み合わせて作られているためです。
例えば、幾何公差を活用した図面では、穴の場所や平坦さなどの情報を明示できます。指示が明確になることで、部品間のズレを抑えた精度の高い部品を製造しやすくなります。その結果、組立工程における作業負荷が軽減され、製造現場の生産性向上にも寄与するでしょう。
グローバル化に対応できる
日本では寸法公差が主流ですが、欧米諸国では幾何公差が標準的に採用されています。そのため、幾何公差を活用すれば海外企業との連携が効率化されます。
例えば、海外企業に製造を委託する際に、幾何公差を用いて設計者の考えを伝達することにより、トラブルの発生を回避しやすくなるでしょう。海外への事業展開を見据えた場合も、幾何公差の運用は有効な手段といえます。
幾何公差の分類
幾何公差は、指定する公差の項目によって以下の4つに分けられます。
形状公差 | 対象物自体の形状を定める |
姿勢公差 | 基準に対する対象物の向き・角度を定める |
位置公差 | 基準に対する対象物の位置を定める |
振れ公差 | 基準に対する対象物の回転時の振れを定める |
形状公差は対象物単体の形状を定める公差であるため、他の対象物との位置関係を指定する必要がありません。そのため、位置関係の基準となるデータムは不要です。一方、残りの3つは基準に対する対象物の向きや位置、振れなどを定める必要があるので、データムが不可欠です。
幾何公差を導入するために必要なツール
幾何公差においては、サイズに加えて形状や配置などの許容範囲も設定するため、マイクロメーターやノギスといった従来の測定機では測定に限界があります。
そのため、製造現場に幾何公差を本格的に導入する場合は、三次元測定機の使用を推奨します。三次元測定機は、空間における三次元座標(X・Y・Z)を計測し、対象物の形状や配置を検出する装置です。
例えば、部品の丸みをマイクロメーターで測定する場合、2点間の距離を複数回測定し、その平均値をもとに丸さを算出する必要があります。しかし、導き出された数値はあくまで平均値であり、マイクロメーターの当て方によって誤差も生じやすいため、精度には限界があります。
一方、三次元測定機ではセンサーを用いて対象物の丸みを計測でき、マイクロメーターよりも高精度で測定することが可能です。このように、三次元測定機では幾何公差で指定された形状や位置などをより正確に把握できます。
三次元測定機を導入する場合は、測定データを解析するソフトの選択も重要な要素です。
東京貿易テクノシステムが開発した計測・解析ソフト「3D-Magic REGALIS」は、自動車メーカーをはじめさまざまな業界で利用されています。
カラーマップ出力や断面検査、非接触データを使った要素解析など、幾何公差を効率よく運用する機能を搭載しているのが特徴です。測定完了後にテンプレートを指定するだけでレポートが自動で作成されるため、検査工数の削減が期待できます。
「3D-Magic REGALIS」は、東京貿易テクノシステムが扱う三次元測定機「Absolute Arm」と連携して運用できます。三次元測定機の導入をご検討される場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
■「3D-Magic REGALIS」の製品詳細はこちら
■「Absolute Arm 」の製品詳細はこちら
■東京貿易テクノシステムが扱う三次元測定機はこちら
幾何公差の記載方法
幾何公差の図面表記には、詳細なルールが定められています。ここでは、図面上の記載方法を詳しく解説します。
幾何公差の記入ルール
幾何公差は、公差記入枠内に下記の3要素を左から右の順序で記入します。
- 幾何特性記号:幾何公差の種類を表す記号
- 許容値:ばらつきの許容範囲
- データム:基準となる点・線・面などの要素
幾何特性記号は、「位置度」を表現しています。位置度とは、基準から見た対象物の配置が適正であるかを定めるものです。
許容値が「0.1」と表示されているため、該当箇所の地点は設計値から0.1mm以内に収める必要があります。対象が円筒形や円、球の場合には、数字の前に専用記号を付記するのが決まりです。
また、データムの「A」は、図面上で「A」と表記された箇所が検査時の基準となることを意味します。必要に応じて複数箇所の指定も可能であり、優先度が高いものを左寄りに配置します。
図面指示の方法
幾何公差を図示する際は、対象箇所を明らかにするため、指示線を矢印で描きます。指示線は、下記の図のように公差記入枠の左端あるいは右端から水平方向に引き出し、その後直角に折り曲げるのが基本です。
ただし、中心平面や軸線への指示をおこなう場合は、寸法線と指示線が一直線上に配置されるように表記します。
このように、指示対象によって作図方法は変化します。なお、同一箇所で複数の公差を設定する場合は、公差記入枠の下側に記入枠を追加しても構いません。
幾何公差を正確に運用するためには
幾何公差を導入しても正確に運用できなければ設計者の意向が正しく製造現場に伝わらず、期待とは異なる製品が納品されるリスクがあります。
そこで、次の項目では幾何公差を正確に運用するためのポイントをご紹介します。
社内加工の図面にも幾何公差を記載
社内加工のみで完結する部品や製品を作る場合においても、幾何公差を用いて図面に必要な情報を記載することが重要です。詳細な指示を表記した図面を作成すれば、加工作業者が完成品のイメージを把握しやすく、安定した品質の部品や製品を製造できます。
ただし、加工作業者が図面の内容を正しく理解した状態で作業をおこなうためには、幾何公差の知識を作業者自身が身につける必要があります。そのため、社内で勉強会を実施するなどの工夫が必要となるでしょう。
脱着のみの作業者にも幾何公差を周知
幾何公差の知識は、設計者や加工作業者に限らず、脱着作業のみを担当する作業者にも周知しましょう。作業者に知識がないと、工具の摩耗などで部品や製品の加工面に異常が生じても、そのまま作業を続けてしまうリスクがあるためです。
作業者が幾何公差を理解して図面を正しく読解できれば、不良品を識別しやすくなります。その結果、不良品の発生を防ぎやすくなり、廃棄の抑制にも効果を発揮するでしょう。
幾何公差の種類
ここでは、先に紹介した4種類の幾何公差について図面に記載する幾何特性記号とそれぞれの意味を一覧でご紹介します。
形状公差
形状公差は対象物の形状を定めるもので、以下の6つに区分されます。
項目 | 概要 |
---|---|
真直度 | どのくらい真っ直ぐであるかを定める |
平面度 | どのくらい平坦な面であるかを定める |
真円度 | どのくらい正しい円であるかを定める |
円筒度 | どのくらい正しい円筒形であるかを定める |
線の輪郭度(形状公差) | 曲面の輪郭がデザイン通りに仕上がるよう定める |
面の輪郭度(形状公差) | 曲面全体がデザイン通りに仕上がるよう定める |
形状公差においてデータムは設定せず、対象物単体の形状を規定します。
一例として、真円度は理想的な円との一致度を表す指標であり、以下のような製品で計測されています。
- 機械加工品:軸受けやローラーなど
- 自動車部品:タイヤやエンジンなど
- 光学部品:レンズや反射鏡など
真円度を定め、正しい円からの偏差を抑えて部品や製品を作ることで、性能や耐久性の向上につながります。
真円度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
■真円度とは?基礎や他の幾何公差との違いから測定方法まで解説
姿勢公差
姿勢公差は、基準に対する対象物の角度や向きを定めており、以下の3つに区分されます。
項目 | 概要 |
---|---|
平行度 | 基準の線や面に対してどのくらい正しく平行であるかを定める |
直角度 | 基準の線や面に対してどのくらい正しく直角であるかを定める |
傾斜度 | 基準の線や面に対してどのくらいの角度であるかを定める |
例えば、ボルト穴を取り付け面に対して垂直になるよう加工したい場合は、直角度を使用します。正しい角度でボルト穴を加工することで、ボルトを正常に締め付けられるようになります。
位置公差
位置公差は、基準に対する対象物の適切な配置を定めており、以下の6つに区分されます。
項目 | 概要 |
---|---|
位置度 | 基準の線や面に対してどのくらい正しい位置にあるかを定める |
同軸度 | 円柱や円筒形状の部品の軸が共通の中心軸からどれだけズレているかを定める |
同心度 | 円形要素の中心が共通の中心点からどれだけズレているかを定める |
対称度 | 基準の線や面に対してどのくらい対称であるかを定める |
線の輪郭度(位置公差) | 曲面の輪郭がデザイン通りに仕上がるように定める |
面の輪郭度(位置公差) | 曲面全体がデザイン通りに仕上がるように定める |
複数の部品を組み合わせて一つの製品を作る際、位置に差異が生じると組み付けが難しくなります。この問題を防ぐには、位置公差を活用して適切な場所を定めることが重要です。位置公差により設計通りの位置を確保することで、部品同士を正しく組み合わせられます。
なお、「線の輪郭度」および「面の輪郭度」は形状公差にも含まれますが、位置公差における輪郭度はデータムが規定されている点で形状公差とは相違があります。
振れ公差
振れ公差は、対象物の回転時に生じる振れを定めており、以下の2つに区分されます。
項目 | 概要 |
---|---|
円周振れ | 対象物回転時の円周の一部における振れを定める |
全振れ | 対象物回転時の表面全体の振れを定める |
回転体の製造では、振れ公差を適切に設定することが重要です。例えば、車輪や歯車の振れを指定された範囲内に収めることで、振動や異常摩耗の発生リスク低下につながります。
まとめ
幾何公差とは、製造物における形や配置などの誤差の許容幅を定めるものです。設計者の指示内容を図面で詳細に書き示すことで、作業者に設計の意向が伝わりやすくなり、部品や製品の品質安定につながります。
製造現場で幾何公差を導入して検査の効率化を図るには、三次元測定機が有効です。
東京貿易テクノシステムが開発した「3D-Magic REGALIS」は、三次元測定機と連携する計測・解析ソフトで、三次元測定データを使用して幾何公差解析を行うことが可能です。お客さまに合わせたカスタマイズが可能で、現場に最適化された解析作業を実現します。
また、大型タイプからコンパクトタイプまで、用途や特徴の異なる三次元測定機を取り揃えています。三次元測定機の導入をご検討されている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
お問合せ
(メールまたはお電話にて回答させていただきます)
(オンライン会議ツールを使って直接お話しいただけます)