航空機・大型設備・建造物などの計測では、従来の三次元測定機だけでは測定範囲が足りず、作業が非効率になるケースがあります。こうした課題を解決する手段として注目されているのが、広い範囲を高精度で測定できるレーザートラッカーです。
ただし、機種により性能やコスト、運用環境が大きく異なるため、導入前には特徴を正しく理解したうえで比較検討することが欠かせません。
この記事では、レーザートラッカーの概要から測定方法、導入メリットまでをわかりやすく解説します。
レーザートラッカーとは?

レーザートラッカーは、本体からリフレクタ(光を反射する球)にレーザーを当てて反射光を読み取り、位置を測定する装置です。計測したい箇所にリフレクタを当てると、その場所の座標を正確に計算できます。
レーザートラッカーの仕組みを理解しやすくするために、まず「トラッカー」という言葉の意味と役割について解説します。
トラッカーの意味
トラッカーとは「追跡者」や「追跡装置」を意味する言葉で、対象物や情報を追跡・記録する役割を持つデバイスや機能の総称です。対象は物理的な物体からデジタル上の行動まで多岐にわたります。
身近な例では、鍵やバッグに取り付けてBluetoothやGPSで位置を特定するデバイスがあります。また、動画編集ソフトに搭載されている、特定の被写体にモザイクやエフェクトを自動的に追従させる機能もトラッカーの一種です。
このように、トラッカーは日常生活のさまざまな場面で活用されています。
トラッカーの役割
トラッカーは、位置情報の把握や行動の追跡だけでなく、産業分野でも幅広く活用されています。代表的な活用例を以下のとおりです。
| 業界 | 活用内容 |
|---|---|
| 物流業界 | 貨物コンテナやトラックにGPSトラッカーを搭載し、輸送状況をリアルタイムで把握 |
| 建設業界 | 重機の位置や稼働状況を監視し、盗難防止や効率的な運用管理に活用 |
| 製造業 | レーザー光を利用する「レーザートラッカー」などの計測装置を用いて、製品や部品の寸法を高精度に測定し、品質管理に活用 |
トラッカーは位置情報の取得から精密な測定まで、目的に応じて多様な役割を果たしています。
レーザートラッカーの仕組み
レーザートラッカーは、レーザー光を用いて対象物の位置を追跡し、三次元座標として高精度に記録する装置です。本体からリフレクタに向けて照射したレーザーが反射して発光源に戻り、レーザーからの距離と角度でリフレクタの中心座標を求められます。
リフレクタを対象物に接触した状態で測定すれば、対象物の座標データを取得できます。レーザートラッカーは、レーザー光が届く範囲であれば遠距離でも測定が可能なため、広範囲かつ高精度に位置を測定できるのが特徴です。
ここでは、同じく三次元測定をおこなう「CNC三次元測定機」や「カメラ式3Dスキャナ」との違いを解説します。
CNC三次元測定機との違い
レーザートラッカーとCNC三次元測定機は、いずれも三次元計測をおこなう装置ですが、測定方式や測定範囲などに以下のような違いがあります。
| 項目 | レーザートラッカー | CNC三次元測定機 |
|---|---|---|
| 測定方式 | ・レーザー光をリフレクタに照射し、反射光を解析して三次元座標を算出 ・リフレクタを対象物に当てて点を取得する方式が一般的(一部機種では非接触式にも対応) | ・主にプローブ(測定物に接触・挿入する針)の先端を対象物に接触させて点を取得する接触式が一般的 ・非接触式やハイブリッド型も普及 |
| 測定範囲 | 10m〜100mクラスまで対応可能 | 数m程度の範囲が一般的 |
| 測定精度 | 高精度だが、距離が長くなると精度がやや低下 | 微細な単位まで正確に測定可能 |
CNC三次元測定機は据え置き型が一般的で、測定対象物をテーブルに固定し計測します。高精度な測定が可能ですが、測定範囲は数m程度に限られます。
一方、レーザートラッカーは10メートルを超える広範囲の測定に対応でき、航空機や大型設備などの大きな対象物の測定に適しています。
カメラ式3Dスキャナとの違い
レーザートラッカーとカメラ式3Dスキャナは、測定方式とデータの取得方法などに違いがあります。
| 項目 | レーザートラッカー | カメラ式3Dスキャナ |
|---|---|---|
| 測定方式 | ・レーザー光をリフレクタに照射し、反射光を解析して三次元座標を算出 ・リフレクタを対象物に当てて点を取得する方式が一般的(一部機種では非接触式にも対応) | ・レーザー光やパターン光を対象物に照射し、形状をカメラで取得 ・点群データとして一括で計測 |
| 測定範囲 | 10m〜100mクラスまで対応可能 | 比較的狭い範囲(数十cm〜数m)を1度に取得 |
| 主な用途 | 大型構造物や設備など、寸法・位置関係の測定に適している | 複雑な形状や自由曲面など、表面形状の再現に適している |
カメラ式3Dスキャナは、レーザー光やパターン光を対象物に照射し、表面全体の形状を点群データとして一度に取得できます。
表面形状の再現にはカメラ式3Dスキャナ、大型対象物の寸法測定にはレーザートラッカーが向いています。
レーザートラッカーの測定方法
レーザートラッカーでは、基本的にレーザーの反射を利用して計測をおこないます。計測箇所や測定機器(リフレクタ、プローブ、ハンディスキャナなど)によって、接触式と非接触式の計測方法を使い分けできます。
測定対象や目的に応じて3つの測定方法をご紹介します。
リフレクタ測定
リフレクタ測定はレーザートラッカー測定の基本スタイルであり、レーザーを用いた測定方法です。リフレクタを対象物の測定箇所に接触させ、レーザートラッカーから照射されたレーザーがリフレクタで反射し発光源に戻ることで、対象物の座標を取得します。
航空宇宙や自動車産業など、寸法精度が求められる分野で広く使われています。また、CADデータとの比較により、製品が設計どおりに製造されているかの検証も可能です。
プローブ測定
プローブ測定はリフレクタ測定と同様に、計測対象物と直接接触しておこなう計測方法です。
レーザートラッカーで使用するプローブは手持ち型のハンディ式ワイヤレスプローブで、三次元測定機で使用されるプローブと形式が異なります。
小型軽量なワイヤレスプローブは取り回しがよく、複雑な形状の対象物も効率よく測定できます。リフレクタでは届きにくい深穴や死角にもプローブを挿入できるため、測定箇所の自由度が高いのが特徴です。
プローブ測定については以下記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
ハンディスキャナ測定(レーザースキャニング)
ハンディスキャナ測定は、スキャナ機器を用いて非接触で測定をおこなう方法です。対象物に沿ってスキャナを手で動かすことで、形状どおりの3Dスキャンデータを得られます。
スキャナにはいくつか種類があり、精度、対象物のサイズや材質などによって選択可能です。手持ちでの測定が基本ですが、ロボットを取り付けて自動化が可能なモデルもあります。
ただし、黒色の表面はレーザー光を吸収し、光沢のある表面が乱反射を起こすため、正確な測定が難しくなる場合があります。測定時には表面状態にも注意が必要です。
レーザートラッカーを利用するメリット
レーザートラッカーは、製造現場での測定業務をより正確かつスムーズに進めるために役立ちます。ここでは、レーザートラッカーの導入によって得られる代表的なメリット3つをご紹介します。
大きな対象物を計測できる
門型やアーム型の三次元測定機は、装置の大きさによって測定可能な対象物のサイズが決まっており、大きな物は測定できない場合もあります。
レーザートラッカーは、レーザーさえ届けば離れた位置にある航空機や大型機械などの大きな対象物の計測もできます。レーザートラッカーを中心に水平方向では360°の測定が可能なため、設置場所や向きなどの自由度が高いのも特徴です。
測定範囲の直径は製品によって異なりますが、一般的には10mを超える広範囲の測定ができます。導入時には、測定範囲が対象物をカバーできるか確認が必要です。
3DCADデータを取り込み実物との差異を測定できる
レーザートラッカーは、製品の3D CADデータを読み込み、実物との差異の測定も可能です。
3D CADとは、三次元データを作成するためのCAD(Computer Aided Design)のことです。3D CADデータとは、CADで作成した三次元データを指します。
レーザートラッカーを使えば短時間で正確なデータが取得・活用でき、業務効率の向上につながります。
持ち運びが可能で場所を選ばず測定できる
一般的な三次元測定機は持ち運びができませんが、レーザートラッカーは可搬性に優れているため、さまざまな場所での計測に対応できます。また、遮光物がある場合でも、測定対象に合わせてレーザートラッカーを移動させれば、柔軟な計測が可能です。
レーザートラッカー導入時の注意点
汎用性の高いレーザートラッカーですが、導入時には注意すべき点もあります。導入の検討をする前に、確認事項を整理しておきましょう。
対象物に応じてタイプを選ぶ必要がある
レーザートラッカーは製品によって測定可能な範囲や対象物のサイズが異なるため、目的や対象物に合わせて機種を選定する必要があります。
また、レーザートラッカーはレーザーが届かない箇所の測定はできません。ただし、ワイヤレスタイプの接触式プローブや他の測定機を併用すれば、レーザーが届かない場所や測定しづらい部分もカバーできます。用途に応じてアクセサリや測定機を組み合わせることで、より柔軟な計測がおこなえます。
十分なスペースが必要になる
レーザートラッカー本体は比較的コンパクトですが、測定には対象物の周囲に十分なスペースの確保が必要です。
対象物が大きく一方向から全体を測定できない場合は、対象物の位置に合わせて、本体を移動して測定を進めます。レーザートラッカーを自由に動かせる環境でないと、正確な測定は難しいです。
製造現場や建設現場では、周辺に機材や資材が配置されているケースも多いため、事前に測定エリア動線を確認し、安全かつ安定した作業環境を整えましょう。
TTSのLeica Absolute Trackerシリーズのご紹介
TTSが提供するLeica Absolute Trackerシリーズをご紹介します。
| AT960 | AT500 | ATS800 | ATS600 |
|---|---|---|---|
| ・ハイエンドモデル ・スキャニングやプロービング機能 ・自動化対策まで幅広く対応できるオールインワンモデル | ・ケーブルレスでコンパクトな次世代のレーザートラッカー ・簡単操作で高精度測定が可能 | ・大型構造物の高精度3Dスキャンに特化 ・ダイレクトスキャン機能とAI活用で効率的な測定を実現 | ・ダイレクトスキャニングで表面を直接測定可能 ・任意の点間ピッチで設定して計測 ・高精度、広範囲の計測が可能 |
Leica Absolute Tracker AT960
Leica Absolute Tracker AT960は、リフレクタ計測に加え、ハンディタイプスキャナによる非接触式の三次元形状計測にも対応しています。ワイヤレスプローブ「T-Probe」による接触式での三次元寸法計測も可能です。
マニュアル計測から計測の自動化(計測自動化・組立自動化)ロボットキャリブレーションまで、幅広い用途で活用できます。
また、レーザーが障害物などで遮断された場合でも、自動で対象物にロックオンする「パワーロックシステム」を搭載しています。そのため、手動でロックオンをやり直す必要がなくなり、作業の効率化につながるでしょう。
高精度かつ高速な動的測定を標準装備し、システムは外部バッテリー駆動にも対応しています。システムとパソコンはワイヤレス通信が可能なため、現場にはシステム本体だけを持ち運んで測定できます。
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Leica Absolute Tracker AT500
Leica Absolute Tracker AT500は、高精度測定と簡単操作を維持しながら、ケーブルレスとコントローラ一体型の可搬性を向上させたレーザートラッカーです。内蔵バッテリー駆動で使用場所を選びません。計測範囲は最大直径320メートルで、大型構造物の検査にも対応しています。
IP54規格の防塵・防水性能を備え、動作温度範囲は-15℃から+50℃と幅広く、過酷な現場環境でも安定した測定が可能です。
従来のモデルでは手動で水平出しをおこなったあとに、リフレクタによる本体のイニシャライズ(初期化すること)が必要でした。しかし、Leica Absolute Tracker AT500は電源を入れるだけでリフレクタを必要とせずに自動でイニシャライズが完了するため、操作性がさらに向上しました。
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Leica Absolute Tracker ATS800
Leica Absolute Tracker ATS800は、大型構造物の高精度3Dスキャンに特化したレーザートラッカーです。最大40mの距離から複雑な形状を高速かつ高精度でスキャンができます。航空宇宙や自動車、エネルギー分野など、大規模製造検査に優れた性能を発揮します。
ダイレクトスキャン機能により、高速かつ正確なスキャンで微細なエッジや特徴を遠隔から安全に測定可能です。また、IP54保護等級を備え、防塵・防水性能により過酷な屋外環境でも対応できます。
Wi-Fiやバッテリーを内蔵したコンパクト設計で、持ち運びも容易です。さらに、AI活用のFeatureDetect機能により穴やエッジを自動識別し、一貫性のある効率的な測定をおこなえます。
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Leica Absolute Tracker ATS600
Leica Absolute Tracker ATS600は、リフレクタのようなツールを使用せず、ダイレクトスキャニングで表面を直接測定できるレーザートラッカーです。ヘッド部分は360°回転するため、ダイレクトスキャニングでの計測範囲の最大直径は120mです。
パワーロックシステムによってリフレクタに自動的にレーザーをロックオンできます。1秒間に1,000ポイントの高速点群取得により、効率的なデータ収集がおこなえます。
設置環境に合わせて、低所用三脚や壁掛けタイプとしても使用可能です。大型構造物や鋳物のポイント寸法計測や鉄道車両の表面計測など多方面で活躍しています。検査の内容によって、リフレクタの組み付け・取り外しなどの使い分けもできます。
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Leica Absolute Tracker シリーズ 総合カタログはこちら
- 機種別の用途早見表(6DoF測定・動的計測・ポータブル性など)
- 導入検討の要件整理に(測定範囲・精度・ワークサイズ・運用要件)
- 各モデルの精度比較 (AT960 / AT930 / AT500 / ATS800 / ATS600)
- 各種アクセサリ(リフレクタ・プローブ)

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TTSのレーザートラッカーの導入事例
TTSが提供するレーザートラッカーの導入事例をご紹介します。
三井住友建設鉄構エンジニアリング株式会社様
三井住友建設鉄構エンジニアリング様では、橋梁製作工場の計測工程でLeica Absolute Tracker AT960および、計測ソフトウェアを採用いただいています。鋼製メジャーなどを用いた一次元の寸法計測から三次元座標計測へ変更しました。
その結果、形状の確認に加え、ブロック間の取合いなどの確認も可能となり、データの有用性が飛躍的に向上しています。
従来は計測に2人、計測後の帳票作成などに1人必要としていました。しかし、レーザートラッカー導入後は最小1人、最大2人での計測が可能となり、帳簿作成作業も合わせると大幅なリソース削減を達成しています。
将来的には、非接触式のレーザートラッカーを活用した夜間自動計測の実現を視野に、更なる効率化が目指されています。
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国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構様
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構様では、放射線の医学的利用や量子科学技術に関する研究開発をおこなっています。
2006年に欧州・ロシア・米国・中国・韓国・インドとの間で締結された「ITER(国際熱核融合実験炉)協定」を受け、これまで使用していた核融合装置「JT-60」を解体し、「JT-60SA」へ改造することになりました。
改造にあたって、日本や欧州で製作した部品を正確に組み立てる必要があり、その際に活用したのが「Leica Absolute Tracker AT960」などのレーザートラッカーです。
組み立てでは、限られたスペースや複雑な構造のなかで部品を設置する場面もあります。その際に、レーザートラッカーで「今どこにパーツがあるのか」「どこに設置すればよいのか」をパソコンでリアルタイムに確認し、作業の効率化につなげました。
特に装置の中心部の組み立ては、設置誤差が1mm以下と厳しい条件でしたが、Leicaの高い精度を頼りに組み立てを進められているそうです。
詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
レーザートラッカーは、レーザー光を用いて対象物の三次元座標を高精度で測定する装置です。据え置き型の三次元測定機では困難な広範囲測定が可能で、航空機や大型設備などの検査で活用されています。
精度の項目は多岐にわたり、補足事項も多いため、詳細については製品ページのスペック欄にてご覧ください。
「こういうワークを測るのにも向いている?」「こんな環境でも使える?」「○○を測るにはどのモデルがいい?」など、質問がございましたら、お気軽に下記問い合わせ先へご連絡ください。
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